EC事業の売上総利益はこう見るべき?
Amazon/楽天の手数料・送料は「売上原価」か「販管費」か【元銀行審査部の見解】

こんにちは。
ホンマル株式会社の代表・村松です。
私は元銀行の本部審査部門で2,000社以上の融資審査に携わった後、現在は主に中小企業・中堅企業向けに融資調達や財務戦略のサポート、財務顧問(社外CFO)を行っています。
今回のテーマは
「EC事業者の“Amazonや楽天などプラットフォーム手数料・送料”は売上原価に入れるべきか?販管費に入れるべきか?
という論点です。
実際、私のところにも、
EC事業者さんや税理士事務所さんから、
- EC事業者:「売上総利益を高く見せるために、手数料・送料は販管費にしたほうが銀行融資に有利と聞きました。本当ですか?」
- 税理士事務所:「うちは変動費として原価に入れる運用にしていますが、顧問先企業から“販管費にできないか?”と言われました」
といったご相談があります。
結論から言えば、
- 売上原価派にも、販管費派にも、それぞれ筋の通ったロジックがあります。
- 「どちらか一方が絶対的に正しい」という話ではありません。
そのうえで、元銀行審査部としての肌感覚+今の社外CFOの立場からいうと、私は
「原理原則どちらが正しいかどうかは意見が割れる。ただ、“変動費としての実態”と“銀行の見方”を踏まえると、やや売上原価派」
という立ち位置です。
この記事では、
- 会計・ビジネスモデルの観点
- 銀行格付・スコアリングの観点
- 実務的な“見え方・印象”の観点
から、この論点を整理していきます。
この記事は8分で読めます
- プラットフォーム手数料・送料を「売上原価」に入れるか「販管費」に入れるかは、意見が分かれるテーマです
- どちらの処理にしても、銀行の格付スコアリング(点数)への影響は軽微〜ほぼ誤差レベルです
- そのうえで、
- プラットフォーム手数料・顧客への発送費用は「売上とほぼ連動する変動費」
- 利益構造やビジネスモデルを理解しやすいPLかどうか
- 銀行担当者が頭の中で再構成しなくてよいかどうか
を考えると、私は少しだけ「売上原価派(=やや原価寄り)」です
- ただし「販管費で処理しているからおかしい」という話ではなく、
「どちらもロジックはあり得る。その上で自分ならこうする」というレベル感で捉えるのが実務的です
元銀行員×融資審査の中枢にて2,000社以上の企業融資を担当してきたプロが、融資調達のサポートします。
特に1,000万円〜数億円規模の高額融資調達に強みを持ち、豊富な経験と知識を活かして、銀行との交渉や資料作成をサポート。
スムーズに、より好条件の融資調達を果たします。
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会計的な「原理原則」は、実はグレーゾーン?
まずは会計の世界の話から。
01|売上原価派のロジック
売上原価派の考え方はシンプルです。
- 楽天やAmazonへのプラットフォーム販売手数料も
- 顧客への商品発送費用(送料)も
「商品を1個売るたびに、ほぼ必ず発生するコスト」ですよね。
つまり
- 売上に比例して増える「変動費」であり
- ECビジネスにおける「仕入+販売にかかる直接コスト」の一部
と捉えることができます。
このロジックでいくと、
「売上に準じて発生するコストは、売上原価に入れるべき」
⇒ 手数料・送料は原価計算の一部であり、売上原価として処理するのがスッキリする
という考え方になります。
02|販管費派のロジック
一方で、販管費派にも根拠があります。
- 販売活動のためにかかる費用(販売手数料・配送費)は、「販売費・一般管理費」に含めるのが自然
- 売上原価は、あくまで“商品の仕入・製造に直接かかったコスト”と捉える
という考え方です。
この立場だと、
「仕入(商品コスト)=売上原価」
「それ以外の販売活動コスト=販管費」
という線引きになり、手数料や送料は販管費に入れる、という判断になります。
03|結論 → 原理原則だけで決着はつかない
ここまで見ると分かる通り
- 「売上原価派」も
- 「販管費派」も
それぞれ一定の筋は通っているんですよね。
なので、原理原則レベルで「絶対にこちらが正しい」とは言い切れないと考えています。
私自身のスタンスは、
「会計論としてはどちらもあり得る。
そのうえで、“変動費としての実態”と“銀行の目線”をセットで考えると、やや売上原価派か」
というくらいの温度感です。
銀行の格付スコアリングには、どこまで効いてくるのか?
次に、みなさんが一番気になるであろう
「銀行の格付(スコアリング)に有利になるのか?」
という点です。
01|スコアリングが見ているのはどこか?
銀行は決算書をもらうと、システムに決算の数字を入力して企業ごとに「スコアリング(点数)」を出します。
いわゆる格付のもとになる点数です。
このとき特に重視されるのは、
- 営業利益・経常利益
- 営業利益率・経常利益率
- キャッシュフロー(債務償還年数 等)
- 自己資本比率・負債比率
- 売上高の推移(成長性)
など。
「売上総利益だけ」を単独で強く評価するケースは、実務上そこまで多くありません。
モデルによって、
- 粗利率
- 販管費率
- 営業利益率
を組み合わせて評価している可能性も銀行によってありますが、その場合も「粗利率だけを上げればスコアが劇的に良くなる」という構造にはなっていないと思われます。
02|A案・B案を比べてみる
よくある例を少しだけ整理すると…
- 売上:10,000
- 仕入:6,000
- プラットフォーム手数料:1,000
- 送料:1,000
- その他販管費:1,000
という前提のもと、
A案(原価派)
- 売上総利益 = 10,000 −(6,000+1,000+1,000)= 2,000(粗利率20%)
- 販管費:1,000(販管費率10%)
- 営業利益:1,000(営業利益率10%)
B案(販管費派)
- 売上総利益 = 10,000 − 6,000 = 4,000(粗利率40%)
- 販管費:3,000(販管費率30%)
- 営業利益:1,000(営業利益率10%)
こうして並べてみると分かる通り、
営業利益・営業利益率はA/Bでまったく同じ
です。
スコアリングモデルが、
- 「粗利率↑」をプラス
- 「販管費率↑」をマイナス
としているなら、AとBでプラス・マイナスが打ち消し合って、総合スコアはほぼ同じになります。
03|実際、多くの銀行担当者の頭の中ではこう見ている
EC事業の審査で、銀行担当者は、
実質原価 = 仕入 + 手数料 + 送料
実質粗利 = 売上 − 実質原価
という形で“頭の中で組み替えて”PL(損益計算書)を見ています。
なので、会計上の表示がA案でもB案でも、
- 「この会社の“実質粗利率”は20%くらいだな」
- 「手数料や送料を含めて原価8,000、粗利2,000というイメージだな」
と理解されているのが実態です。
「見かけの粗利アップ」は、どこまで意味があるのか?
では、
「粗利(売上総利益)を高く見せたら、担当者の印象が良くなるのでは?」
という期待は、どうでしょうか。
01|正直ベースでは、一瞬は“おっ”となる
正直に言うと、支店担当者レベルでは、決算書をパッと見て
「粗利率、結構高いですね」
「粗利率、昨年度よりも高くなりましたね」
という会話になることはあります。
ただ、その後は
「販管費の中身は?」
「この手数料や送料って、どのくらい売上と連動してます?」
といった確認が入り、最終的にはA案と同じ「実質粗利20%」として認識される可能性が高いです。
02|むしろ「見せ方をいじっている?」と見られるリスク
もっと本音で言うと、
- 手数料・送料をあえて販管費に寄せている
- 同業他社と比べて粗利が妙に高く見える
といったPLを見ると、私のような審査側の人間は、
「これは単純に運用の違いなのか?」
「それとも、少しでも見栄えを良くしたくて分類をいじっているのか?」
という目で見ます。
決算書というのは、
- 「きれいに見せるための資料」ではなく
- 「実態をできるだけ正確に伝えるための資料」
であるべきなので、あまり“見せ方寄り”に走ると、かえって信頼感を損なうリスクが出てきます。
※あわせて読みたい → ホンマル株式会社はどんな会社? 銀行融資調達サポートと月額制「社外CFO」の実力を徹底解説
最終的に、どう決めるのが「筋がいい」のか?
ここまで整理すると、ポイントはこうなります。
- 会計論としては、売上原価/販管費のどちらにも一定のロジックがある
- 銀行格付スコアリングは、営業利益・キャッシュフローのほうを重視しているため、
- → 区分を変えても点数への影響は軽微
- 実務上は、プラットフォーム手数料・送料は「売上とほぼ連動する変動費」であり、
- → 仕入と合わせて“実質原価”としたほうが、利益構造が分かりやすい
- → 銀行担当者にも自然に伝わる
この3点を踏まえると、私の結論は、
会計論的にはどちらもあり得る。
ただ、ECビジネスの実態・銀行の見方・説明のしやすさを含めて考えると、「やや売上原価派」に寄せておくほうが筋が良い
というものです。
「販管費で処理しているから間違い」という話では決してなく、
- 「その考え方も分かる」
- 「でも、自分が財務顧問として設計するなら、基本は原価に寄せます」
くらいのニュアンスで捉えていただければと思います。
※おすすめ記事:【2025年最新】銀行審査は“ここで決まる”!融資を通す3つのポイントを元審査官が公開
EC事業者・税理士事務所の方へ|こういうときこそ“財務顧問”の出番です

このテーマ、表面上は「勘定科目の話」に見えますが、本質はもう少し深いところにあります。
- 自社のビジネスモデルを、PLのどこにどう表現するか
- 銀行や投資家に、どんな“ストーリー”で数字を見せていくか
- 変動費・固定費の整理を通じて、どこで利益を取りにいくビジネスなのかを言語化できているか
こういった視点があるかどうかで、
- 同じ売上・同じ利益でも「評価」や「資金調達のしやすさ」が変わってしまいます。
ホンマル株式会社では、
- EC事業者の方に対しては、「銀行が見ている目線」を踏まえたPL設計・財務戦略の伴走
- 税理士事務所の方に対しては、「逆に財務顧問」として、融資・銀行対応部分だけを丸ごとアウトソースしていただく形の支援
も行っています。
「決算や申告は問題なく回っているけれど、銀行や金融機関との“見せ方・話し方”までは十分ケアしきれていない」
そんなEC事業者・税理士事務所の方は、一度ホンマルにご相談いただければ、きっとお役に立てると思います。
- ECの売上総利益の考え方を整理したい
- 銀行目線を前提にした管理会計・月次レポートを作りたい
- 顧問税理士として、融資や銀行対応の部分を信頼できるパートナーに任せたい
と感じられた方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
ホンマル株式会社へ
元地方銀行本部審査部/現・社外CFO・財務顧問
「銀行の内側の目線」と「現場の経営感覚」の両方を武器に、EC事業者と税理士事務所の“本丸(ホンマル)”である財務を、一歩先から支えます。
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参考記事:ホンマル株式会社はどんな会社? 銀行融資調達サポートと月額制「社外CFO」の実力を徹底解説
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