「役員借入金」は銀行評価が下がる?元銀行審査官が本音で解説

こんにちは。
ホンマル株式会社の代表・村松です。
私は元銀行の本部審査部門で2,000社以上の融資審査に携わった後、
現在は主に中小企業・中堅企業向けに融資調達や財務戦略のサポート、財務顧問(社外CFO)を行っています。
今回のテーマは
「役員借入金」は銀行はどう評価するのか?
中小企業の決算書を見ると、かなりの頻度で出てくるのが 「役員借入金」 です。
社長が「会社を支えるために入れてきたお金」なので、
会社としては“ありがたい存在”なのですが……
銀行の審査では、この役員借入金がプラスにもマイナスにも働きます。
- 「役員借入金が多いと借入はできない?」
- 「資本と見てくれることはある?」
- 「返済したら銀行にマイナス?」
こうした疑問に、元銀行・本部審査で2,000社を見てきた立場から、実務ベースのリアルな観点でお答えします。
この記事は8分で読めます
- 役員借入金があると、銀行は決算書をどう評価するのか
- 銀行がチェックしている 5つのポイント(額・推移・理由・条件・社長とのお金の動き)
- 「これはマイナス評価になる」役員借入金のパターンと、逆にプラス材料になるパターン
- 銀行担当者・審査部に対して、どのように説明すれば印象がよくなるか
元銀行員×融資審査の中枢にて2,000社以上の企業融資を担当してきたプロが、融資調達のサポートします。
特に1,000万円〜数億円規模の高額融資調達に強みを持ち、豊富な経験と知識を活かして、銀行との交渉や資料作成をサポート。
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1. そもそも役員借入金とは?銀行が気にしている“本質”
まず整理です。
役員借入金とは、「社長(役員)が会社に一時的にお金を貸している状態」を指す勘定科目です。
中小企業ではよくある形で、
- 運転資金が足りないときに、社長が自分の預金から会社に入れる
- 設備投資のタイミングで、銀行融資が間に合わず、一時的に立て替える
- 赤字が続き、資金ショート寸前になったところを社長が支える
といった場面で積み上がっていきます。
会社からすると、
「社長が身を削って支えてくれている」
ありがたい存在です。
一方、銀行から見ると、役員借入金には二つの顔があります。
- 負債としての顔(将来、社長に返さないといけないお金)
- 社長の覚悟・コミットメントとしての顔(実質的に“資本”のような働き)
この“二面性”があるからこそ、「中身の説明次第」で評価が大きく変わる科目なのです。
2. 銀行が役員借入金を見るときの「5つのチェックポイント」
審査の現場で、決算書のBS(貸借対照表)を開いたとき、役員借入金については、だいたい次の5つを一瞬で確認します。
2-1. 金額の大きさ
まず単純に「大きすぎないか」です。
- 総資産に対してどのくらいの割合か
- 自己資本(資本金+利益剰余金)と比べてどのくらいか
- 年商と比べて、違和感のある水準かどうか
たとえば、
- 総資産3億円、自己資本1,000万円
- 役員借入金8,000万円
だと、審査側はこう感じます。
「本来は資本で入れるべきところを、借入で埋めているのでは?」
2-2. 過去3期の推移
銀行は「過去3期の決算書」を並べて見ます。そこで、役員借入金の増減の流れをチェックします。
- 毎期増え続けている
→「資金繰りが慢性的に苦しいのかな…」 - 少しずつ減ってきている
→「黒字で返済できており、改善傾向だな」 - 上下が激しい
→「社長と会社の間でお金が行ったり来たりしているのでは?」
“額”だけでなく、“流れ”を見るのが銀行の基本です。
2-3. 発生理由(なぜ借入になっているのか)
ここが一番重要です。
- 赤字補填のための入金なのか
- 設備投資などの一時的な立替なのか
- 銀行融資が間に合わない期間だけのブリッジ(つなぎ)なのか
- 税金や社会保険料の支払いのために入れたのか
発生理由が違えば、評価はまったく変わります。
赤字補填が何年も続いた結果の役員借入金と、一度きりの設備投資の立替は、同じ「役員借入金」という名前でも、審査側の印象は全然違う、ということです。
2-4. 条件(返済期限・利息・契約書の有無)
次に見るのは「どんな条件で貸しているのか」。
- 返済期限が決まっていない
- 利息も取っていない
- 契約書も特にない(口頭レベル)
こういったケースだと、銀行は
「実質的には“資本”に近い性格だな」
と感じます。
逆に、
- 1〜3年の短期
- 利息あり
- 実際に返済も発生している
であれば、純粋な“負債”として、自己資本とはきっちり分けて評価します。
2-5. 社長とのお金の出入り全体(役員貸付金の有無)
審査でかなり嫌がられるのが、
「役員借入金」と「役員貸付金」が同時に存在しているケースです。
- 会社 → 社長へ貸しているお金(役員貸付金)
- 社長 → 会社へ貸しているお金(役員借入金)
この両方があると、審査側の本音はこうです。
「会社と社長の財布がぐちゃぐちゃだな…
資金の流れが不透明で、ガバナンスも弱そうだ」
この状態だと、それだけで格付けが下がることもあります。
この記事の解説動画です↓
2025年12月13日YouTube公開
3. 銀行が“厳しめ”に評価する役員借入金のパターン
ここからは、より生々しい話です。
銀行が「これはちょっとマイナスだな」と感じるパターンを整理します。
3-1. 自己資本比率が極端に薄く、役員借入金で支えている
典型的なのが、
- 自己資本比率が5%前後と低い
- 役員借入金が多額に積み上がっている
という決算書です。
この場合、銀行は
「会社としての体力が足りないから、社長の懐で支えている状態だな」
と判断します。
もちろん「社長が支えている」のは良いことですが、
- いつまで社長の資金で支え続けられるか
- 社長が高齢化したとき、同じ支え方ができるのか
といった持続性の不安がつきまといます。
3-2. 黒字が出るたびに役員借入金をガッツリ返済している
もう一つ、銀行が気にするのは「将来の資金流出リスク」です。
- 決算書上は利益が出ている
- その一方で、役員借入金を社長にどんどん返済している
こういう動きが見えると、銀行は
「利益はちゃんと出ているけど、キャッシュが社外(社長個人)に流れている会社だな」
と評価し、慎重になります。
そのため、新規のまとまった融資をする場合には、
- 「当行の返済を優先し、役員借入金の返済は抑えてほしい」
- 「役員借入金を大きく返済する場合は事前に相談してほしい」
といった条件(コベナンツ)を付けることもありえます。
3-3. 役員貸付金との“セット”で存在している
前述のとおり、
- 貸借対照表に役員借入金
- そのすぐ近くに同じくらいの金額の役員貸付金
このセットは、審査側の印象をかなり悪くします。
「実質相殺できるのに、なんでこんな状態になっているのか?」
「社長の私的な資金需要を、会社の資金でまかなっているのでは?」
といった目で見られます。
4. 逆に、銀行が“プラス材料”として見るパターン
「役員借入金=悪」ではありません。
むしろ、プラス評価になるケースもあります。
4-1. 社長が逃げずに会社を支えてきた「覚悟の履歴」
赤字が続いた時期や、売上が落ち込んだタイミングで、社長が自分の資金を入れて会社を守った結果として役員借入金が積み上がっているケース。
審査側は、こう読みます。
「苦しいときにも会社を放り出さず、自分のお金を入れて守ってきた社長だな」
これは、銀行が大事にする“定性評価(人・経営姿勢)”の大きなプラス要素です。
4-2. 実質的に「資本性」が高い役員借入金
役員借入金の条件が、
- 返済期限なし、もしくは10年以上の超長期
- 銀行返済より明確に“後順位”(銀行返済を優先)
- この数年、返済を一切行っていない
- 社長自身も「急いで返済してもらうつもりはない」と明言
というものであれば、銀行は内部的に
「これはほぼ自己資本に近い動きをする」
と評価し、自己資本比率を計算するときに一部を“みなし自己資本”として扱うこともあります。
その結果として、格付けがワンノッチ良くなるケースも現実にあります。
4-3. 将来的に資本化・債務免除する方針がある
以下のような方針がある場合も、評価は好転します。
- 「一定の利益水準が続いたら、役員借入金の一部を増資に振り替える予定」
- 「黒字が安定した段階で、社長が債務免除を行うことも視野に入れている」
こうした “中長期的な資本政策の絵” を銀行に示せると、
「今は負債になっているが、将来的には自己資本を厚くしていく方向性だな」
と理解してもらえます。
5. 審査の現場での実務:役員借入金はこう使われている
もう少し踏み込んだ実務寄りの話です。
5-1. 格付け・自己資本比率の調整材料
銀行は、内部格付けをつける際に、
- 自己資本比率(安定性)
- 債務償還年数(返済能力を見る指標) など
を機械的に算出します。
このとき、役員借入金のうち「資本性が高い部分」については、機械計算では負債として扱いつつ、審査資料の中で定性的に自己資本として加点することがあります。
「形式的には負債だが、実態は資本に近い」
と判断されれば、銀行内での見え方はかなり良くなります。
5-2. 資金繰り・返済能力の評価
役員借入金と銀行借入金を合わせて、
- 今後、どのくらいのキャッシュフローが生まれるのか
- 返済計画は現実的か
- 社長への返済はどのタイミングで、いくらくらい行うのか
といった点をチェックします。
特に、
- 銀行への返済と
- 役員借入金の返済が
同じタイミングで膨らみそうだと、審査はかなり慎重になります。
5-3. コベナンツ(借入条件)への落とし込み
一定規模以上の融資や、財務内容に懸念がある会社では、
- 「当行の承諾なく役員借入金を返済しないこと」
- 「新たな役員借入金の発生を抑制すること」
などを借入条件として入れることもあります。
銀行は、「想定外の資金流出」を何より嫌うので、役員借入金はコベナンツの対象になりえます。
6. 銀行担当者・審査部に「うまく伝える」ための説明テンプレート
ここが実務的に一番大事なポイントです。
役員借入金がある会社が、銀行にどう説明すればいいのか。
シンプルに言うと、以下の3点セットを用意しておくだけで印象はガラッと変わります。
6-1. 【① 発生理由】なぜ役員借入金が発生したのか
まず、理由をはっきりさせます。
悪い例:
「なんとなく足りないときに入れてきただけです」
これは一番印象が悪いパターンです。
良い例:
- 「コロナ禍で売上が急減した際、従業員の給与支払いを優先するために、社長が自己資金を入れました」
- 「設備投資の実行と銀行融資の実行タイミングにズレがあったため、その間を社長が立替えました」
ここまで説明できれば十分です。
6-2. 【② 今後の方針】返済や資本化をどう考えているのか
次に、「これからどうするか」です。
悪い例:
「利益が出たらその都度返していこうと思います」
これだと銀行は、「利益が出るたびに社長への返済でお金が抜けるかも」と構えます。
良い例:
- 「当面は役員借入金の返済は据え置き、銀行返済を優先します」
- 「3期連続黒字で自己資本が厚くなった段階で、一部を増資に振り替えることも検討しています」
中身として完璧である必要はなく、「筋の通った一つの方針」があればOKです。
6-3. 【③ 銀行返済より後順位】銀行を優先する姿勢を明言する
最後に、はっきり伝えておくべきことが一つあります。
「銀行返済を最優先し、役員借入金は会社の資金繰りに支障のない範囲で扱います」
これは、審査側にとって非常に大きな安心材料になります。
場合によっては、
- 決算説明資料の中に明記する
- 銀行との打ち合わせメモに残してもらう
といった形で、「証拠として残しておく」と、なお良いです。
7. まとめ:役員借入金は「あるかないか」より「どう説明するか」

最後にポイントを整理します。
- 役員借入金があること自体は、よくあることで、即NGではない
- 銀行が見ているのは、
- 金額の大きさ
- 過去の推移
- 発生理由
- 条件(返済期限・利息・劣後性)
- 社長とのお金の出入り(役員貸付金の有無)
- 「自己資本の薄さを、社長のお金で無理やり埋めているだけ」と見えるとマイナス
- 一方で、「苦しい時期に会社を支えた社長の覚悟」としてプラス評価されることもある
- 銀行には、
- なぜ発生したのか
- 今後どう扱うのか
- 銀行返済を優先する姿勢
をセットで説明できると、評価が大きく変わる
「うちの役員借入金、銀行はどう見てる?」と思ったら
この記事を読んで、
- 「うちの役員借入金は多い方なのか?」
- 「この状態で、新規の設備資金や運転資金の融資を申し込んで大丈夫か?」
- 「決算説明のとき、どう説明するのがベストか?」
と感じられた方も多いと思います。
ホンマル株式会社では、元銀行本部審査の目線で、決算書と役員借入金の「見られ方診断」や、
- 銀行向けの決算説明資料の作成
- 役員借入金を含めた中長期の資本政策の整理
- メインバンクとのコミュニケーションの組み立て
といったサポートを行っています。
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参考記事:ホンマル株式会社はどんな会社? 銀行融資調達サポートと月額制「社外CFO」の実力を徹底解説
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