
【銀行審査の目線】
介護事業が銀行融資を通すために知っておくべき「収支構造」と「審査ポイント」
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※長尺記事です。
こんにちは、ホンマル株式会社の代表・村松です。
私は元銀行の本部審査部門で2,000社以上の融資審査に携わった後、現在は企業向けに融資調達や財務戦略のサポート、社外CFOを行っています。
今日取り上げるのは「介護事業者と銀行融資」についてです。
- 銀行は「介護は需要が増えるから安泰」とは見ておらず、人件費・入居率・紹介ルートなどをかなりシビアにチェックしている
- 介護事業の収益は、本質的には 「利用者数(入居率・利用率)× 単価(介護報酬+自費)」 で決まる
- コスト構造は 人件費+家賃(建物)+食材・水道光熱費+送迎費用 が中心で、銀行は「人件費率」と「人員配置」をセットで見ている
- 有料老人ホーム・サ高住・デイサービス・訪問介護など、サービス形態ごとに銀行の見方・重視ポイントが微妙に違う
- 介護報酬改定(3年ごと)や2026年の臨時改定を踏まえ、「改定後も利益が残るか?」というシミュレーションがあるかどうかが重要
- 平時から 入居率・利用率・人件費率・クレーム・行政指導の有無 を整理し、「銀行向け決算説明資料」を用意しておくと、融資相談が通りやすくなる
元銀行員×融資審査の中枢にて2,000社以上の企業融資を担当してきたプロが、融資調達のサポートします。
特に1,000万円〜数億円規模の高額融資調達に強みを持ち、豊富な経験と知識を活かして、銀行との交渉や資料作成をサポート。
スムーズに、より好条件の融資調達を果たします。
関連記事(こちらもぜひ):銀行がプロパー融資を提案してくる会社こそ「社外CFO」を入れるべき理由とは?
関連記事(ぜひ):【経営者必見】「事前の一手は、事後の百手に勝る」――元銀行員が語る“経営判断の質”を高める思考とは?
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介護事業は銀行からどう見られているのか?

「介護は右肩上がりで安泰」ではない
介護事業の経営者の方から、よくこんなお話を聞きます。
「高齢化で需要は増える一方だし、介護事業なら銀行も前向きですよね?」
たしかに、マクロで見れば介護ニーズは増え続けています。
ただ、銀行の視点に立つと、少し違う見え方になります。
- 介護報酬は国が決めており、事業者が自由に値上げできない
- 人件費は上がり続けているが、報酬はそこまで伸びない
- 参入が増えたエリアでは、入居率・利用率の確保が厳しい
銀行の本音は、
「需要はあるが、利益が残りにくい業種。だからこそ、きちんと管理している事業者かどうかを見極めたい」
というところです。
「介護だから何とかなるでしょ?」という感覚でいると、銀行との温度差が大きくなってしまいます。
担当者と本部審査で“気にしているポイント”が違う
介護事業における銀行融資審査の現場では、
- 支店担当者
- 本部審査(与信部門)
がそれぞれ違うものを見ています。
支店担当者が見ているもの
- 経営者や管理者の人柄・誠実さ
- 現場の雰囲気(職員の表情・離職の多さ)
- 日々の預金・引き落とし状況(給与や家賃が遅れていないか)
- 施設の清潔感・入居者の様子
本部審査が見ているもの
- 決算書・試算表・資金繰り表などの「数字」
- 入居率・利用率・人件費率・家賃負担などの「KPI」
- 介護報酬改定・最低賃金の引上げなどの影響
- 拡大計画(新規出店・増床)と返済能力のバランス
この2つをつないでくれるのが、
- 分かりやすい収支の整理
- 銀行向けの決算説明資料
です。
過去の関連記事: 【銀行から融資の連絡がない…】元銀行員・融資のプロが対処法を伝授!
介護報酬と売上の基本構造 ― 「利用者数 × 単価」で考える

介護サービスの流れをざっくり整理すると…
細かい制度の話は抜きにして、銀行との会話で押さえておきたいのは、次の流れです。
- 要介護認定(要支援1〜2/要介護1〜5)
- ケアマネジャーがケアプランを作成
- 利用者が有料老人ホーム・サ高住・デイサービス・訪問介護などを利用
- 介護事業者は「介護報酬(給付分)」+「利用者負担(1〜3割)」で売上計上
このとき、事業者の売上は、
利用者数(入居率・利用率) × サービス単価(介護報酬+自費)
で決まります。
銀行としては、
- 定員に対して、どれくらい埋まっているか?(入居率・利用率)
- 利用者単価はどれくらいか?(介護報酬+自費サービス)
を、ざっくりでいいので知りたいのです。
「支給限度額」と「単価」のイメージ
介護保険には、要介護度ごとに「1ヶ月の支給限度額」が決められています。
- 要介護度が高いほど、使えるポイント(限度額)は大きい
- 限度額の範囲内は、1〜3割負担
- 限度額を超える部分は「全額自費」
ここで銀行が気にするのは、
「この事業者は、どの要介護度の利用者を中心にしているか?」
「自費サービスの売上はどの程度か?」
という点です。
例えば、
- 要介護度3〜5の入居者が多い有料老人ホーム
- 要介護度1〜2の通所リハビリ中心のデイサービス
では、同じ「介護事業」でも収益性はかなり違います。
関連記事:福岡県で事業融資を受けるならどこの銀行がおすすめ?|元銀行審査官が教える“選び方”
介護事業のコスト構造 ― 銀行が気にする「人件費」と「固定費」

介護事業の主なコスト
介護事業のコスト構造は、シンプルに分けると以下の通りです。
- 人件費(介護職・看護師・ケアマネ・生活相談員・事務など)
- 建物関連費(家賃・減価償却・修繕費)
- 食材費・消耗品費(オムツ・衛生用品など)
- 水道光熱費
- 送迎車の燃料費・リース料(デイサービスなど)
- 本部費用(本社人件費・広告費・システム費 etc)
この中で圧倒的に大きいのが人件費です。
銀行は、
- 売上に対して人件費が何%か(人件費率)
- 人員配置は基準を満たしつつ、過剰な人員になっていないか
- 残業・夜勤手当の負担が過大になっていないか
といった点を見ています。
「人件費率」は高くてもいい。その代わり…
介護事業は人がサービスを提供するビジネスなので、人件費率が高いのはある意味当然です。
銀行もそれは理解しています。
大事なのは、
「人件費率が高いことを自覚し、それでも利益が残るように設計しているか?」
です。
- シフト表を工夫して、残業・夜勤手当をコントロールしているか
- ICT・記録システム・インカムなどで、ムダな動きを減らそうとしているか
- 生産性の低い時間帯(利用者が少ない時間帯)をどう設計しているか
こうした取り組みがあると、決算書の数字以上に、「この会社はちゃんと考えている」と銀行に伝わりやすくなります。
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参考記事:他人と比べない経営が強い会社をつくる|“ひたすら自分に集中する”経営者が成功する理由
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介護事業者サービス形態別|銀行が見る融資審査ポイントの違い

ここからは、サービスごとに「介護事業における銀行融資審査のポイント」をざっくり整理してみます。
1.有料老人ホーム・サ高住(サービス付き高齢者向け住宅)
銀行が特に気にするのは次の点です。
- 入居率(何%で推移しているか?)
- 客層(要介護度・年齢層・紹介元)
- 家賃・共益費・食費などの料金設定
- 建物の所有形態(自社所有/賃貸)と家賃水準
- 夜間の人員体制・看護体制(看取り対応など)
新設であれば、
- 周辺の競合施設との比較(料金・サービス・立地)
- 医療連携(クリニック・訪問看護など)
- 紹介ルート(病院ソーシャルワーカー、ケアマネ、紹介会社)
が重要です。
入居率の目安感
- 安定ライン:90%前後
- 要注意ライン:80%を切り始める頃
- 危険ライン:70%台前半で長期間固定
もちろん立地や単価次第ですが、銀行としては「90%前後で推移しているか」が一つの目安になります。
2.デイサービス(通所介護)
銀行が見るポイントは、
- 定員に対する利用率(午前・午後の枠ごと)
- 1回あたりの単価(介護報酬+加算+自費)
- 送迎ルート・送迎コスト
- ケアマネジャーとの関係性(どの事業所から紹介を受けているか)
- 競合デイサービスとの違い(リハビリ特化・認知症対応・短時間など)
利用率の目安感(例)
- 80%以上:比較的安定
- 60〜70%台:改善余地あり
- 50%台以下:集客・サービス内容の見直しが必要
銀行としては、
「利用率が下がっている場合、その理由と打ち手を説明できるか?」
を強く気にします。
3.訪問介護(ヘルパー)・訪問看護
銀行が見るポイントは、
- 登録ヘルパー数・常勤ヘルパー数
- 1人あたりの稼働時間(訪問件数・時間数)
- 夜間・早朝・深夜などの割増時間帯の稼働
- 交通費・移動時間の管理方法
- 利用者の属性(要介護度・医療依存度)
訪問系は「人の稼働時間が売上と直結する」ため、銀行は「1人あたり生産性」を特に気にします。
「常勤1人あたり、どれくらいの売上を上げているか?」
「非効率な移動が多くないか?」
などを、ざっくりでいいので説明できると良いです。
おすすめ記事:【経営者必見】「事前の一手は、事後の百手に勝る」ーー元銀行員が語る“経営判断の質”を高める思考とは?
介護報酬改定・最低賃金と銀行審査の関係

介護報酬改定は「3年に一度」の大きなイベント
介護報酬は原則として3年に一度見直されます。
- 報酬改定でプラスになるサービス
- 横ばい・マイナスになるサービス
がはっきり分かれることも多く、
「改定前は黒字だったのに、改定後に急に収益が悪化した」
というケースも珍しくありません。
銀行は、
- 直近改定の影響をどう受けたか
- 次回改定で収益がどう変化しそうか
- そのシミュレーションをしているか
といった点を見ています。
2026年臨時改定・2027年本改定をどう見るか(方向性の話)
今後も、
- 介護職員の処遇改善
- 財政制約(介護保険財政の厳しさ)
といったテーマは続くため、
「報酬は大きくは増えない、でも人件費は上がる」
という状況が続くと見ている銀行は多いです。
経営側としては、
- 報酬改定で単価が多少変動しても
- 入居率・利用率・人件費率・自費売上を組み合わせて利益を確保する
という発想が大事になります。
銀行に対しても、
「改定後にこういう単価想定で試算しています」
「このラインまでは利益を残せるように設計しています」
といった説明ができると、銀行融資審査が前向きになりやすくなります。
参考記事:ノンバンクでの資金調達、待った!法人が融資を受ける前に知るべき“落とし穴”と最後の選択肢
銀行が融資審査時に決算書・資料でチェックしていること

決算書でまず見るのは「3年の流れ」
介護事業者における銀行融資審査で、まず決算書を見るときの視点は、
- 売上高の推移(増えているか?横ばいか?減っているか?)
- 営業利益・経常利益(黒字か?赤字か?どのくらいの水準か?)
- 減価償却費(建物・設備投資の規模)
- 借入金残高と年間元利返済額
- 自己資本(債務超過かどうか)
です。
ここから、
「この返済額を、将来にわたって本当に払っていけるか?」
を見ていきます。
「介護事業ならではの資料」があると強い
決算書だけでは、介護事業の実態はなかなか見えません。
銀行としてありがたいのは、例えばこんな資料です。
- 事業所別・サービス種別の売上・利益の一覧
- 有料老人ホーム・サ高住の入居率推移(3年分くらい)
- デイサービスの利用率推移(定員との関係)
- 訪問介護のヘルパー人数・稼働時間・売上の概要
- 介護報酬改定による影響の簡易試算(増減のイメージ)
これらがA4数枚にまとまっているだけで、銀行の理解スピードはグッと上がります。
行政指導・返戻・重大クレームがないか
もう一つ、介護事業ならではのチェックポイントとして、
- 行政からの指導・改善命令の有無
- 介護報酬の過誤・返戻・減算の多さ
- 利用者家族からの重大クレーム・訴訟の有無
も見られます。
ここは隠さず、
- 過去に何があり、どう改善したか
- 現在はどんなルール・仕組みで再発防止しているか
を整理しておくことで、逆に信頼感につながるケースも多いです。
新規開設・増床・多店舗展開での融資ポイント

新規開設のとき:計画と実績のギャップをどう埋めるか
有料老人ホーム・サ高住・デイサービスなどの新規開設時の融資では、
- エリア・立地選定の妥当性
- 競合状況(供給過剰になっていないか)
- 開設後1〜2年の入居率・利用率の計画
- 紹介ルート(病院・居宅介護支援事業所・地域包括支援センターなど)
が重要です。
銀行は、
「このエリアに、本当にもう1施設必要なのか?」
「入居率・利用率の計画は現実的か?」
を見極めたいと思っています。
開設後はどうしても、
- 入居率が計画よりスロースタート
- 採用が計画通りに進まない
といったことが起きやすいので、
「計画より弱く推移した場合の資金繰り」をあらかじめシミュレーションしておく
ことが非常に大切です。
多店舗展開のとき|本部機能と人材のキャパシティ
介護事業で2拠点・3拠点と増やしていくと、銀行は次のような点を見ます。
- 本部機能(管理・労務・経理・教育)の体制
- サービス品質が拠点ごとにバラついていないか
- 現場のリーダー(管理者・施設長)を育てる仕組みがあるか
数字だけでなく、
「この規模まで増やしたとき、本部と現場のマネジメントが耐えられるか?」
という組織面も含めて見ていきます。
銀行との付き合い方 ― 平時からやっておきたい3つのこと

① 銀行向け「決算説明資料」を毎年アップデートする
医療編でもお伝えした話ですが、介護事業でも同じです。
- 決算書一式
- 事業所別・サービス別の収支・入居率・利用率
- 介護報酬改定や最低賃金の影響
- 今後1〜3年の出店・投資計画
をまとめた決算説明資料(パワポなど)を、毎年更新してメインバンクはじめ取引金融機関全行に説明する。
これだけで、
- 「数字と現場をちゃんと見ている会社だ」という印象
- 担当者が変わっても、会社理解が引き継がれる
というメリットがあります。
② 数字だけでなく、「現場の取り組み」も伝える
介護事業は、人が主役のビジネスです。
- 離職率を下げるための工夫
- 教育・研修の仕組み
- ICT・DXの取り組み(記録システム・インカム・ルーティングなど)
- クレーム・事故対応のルールづくり
こうした現場の取り組みを、数字とセットで銀行に伝えると、
「この会社は、目先の数字合わせだけではなく、現場から良くしようとしている」
と伝わり、評価にプラスに働きます。
③ メインバンク+アシストしてくれるサブバンクを持つ
介護事業に限らずですが、融資を1行だけに集中させるのはリスクがあります。
- メインバンク:運転資金・主要な設備投資
- サブバンク:一部設備投資・特定プロジェクト(新規出店など)
といった形で、最低2〜3行で役割分担をしておくと安心です。
特に介護事業は、
- 介護報酬改定
- 最低賃金・処遇改善
- 人手不足
といった外部要因で、業績がブレやすい業種です。
そんなとき、
「日頃から情報をしっかり共有している金融機関が複数ある」
というのは、資金繰りのセーフティネットとしても大きな意味があります。
まとめ|介護事業が「銀行融資を通す」ための3つのポイント

最後に、「介護事業者が銀行融資審査を通す」視点で、ポイントを3つに絞ります。
ポイント①|収益構造を「利用者数 × 単価」で整理して説明できるか
- 入居率・利用率はどうか?(推移も含めて)
- 利用者単価(介護報酬+自費)はどうか?
- 介護報酬改定後のシナリオを考えているか?
ここを整理して話せる介護事業者は、それだけで一歩抜けています。
ポイント②|人件費と人員配置を、数字と現場の両面で説明できるか
- 人件費率がどれくらいか
- その水準をどうコントロールしているか
- シフト・夜勤・残業をどう設計しているか
- 離職率を下げる工夫・教育への取り組み
「高いからダメ」ではなく、「高いなりに設計している」
と説明できるかどうかが勝負どころです。
ポイント③|銀行向け決算説明資料を持ち、平時から情報共有しているか
- 毎年の決算で、銀行にしっかり説明しているか
- 数字が悪いときほど、早めに相談しているか
- メイン・サブ含め、2〜3行と対話できているか
「困ったときだけ銀行に行く」のではなく、普段から一緒に数字を見てくれるパートナーとして関係を作っておくことが、介護事業にとって大きな強みになります。
ホンマル株式会社としてお手伝いできること
ホンマル株式会社では、元銀行本部審査の経験を活かし、
- 有料老人ホーム・サ高住・デイサービス・訪問介護などの事業別・事業所別の収支整理(利用者数×単価ベース)
- 介護報酬改定や最低賃金引上げを踏まえた利益・キャッシュフローのシミュレーション
- 新規開設・増床・多店舗展開時の銀行向け事業計画書・決算説明資料の作成サポート
- メイン・サブバンクとの融資交渉・情報開示の戦略整理
といった支援を行っています。
「これから介護事業で新規出店・増床を検討している」
「銀行にどう説明すればいいか、毎回場当たりになってしまう」
といったお悩みがあれば、ライトなオンライン相談からでも構いませんので、ぜひ一度ご相談ください。
👉 お問い合わせ:大口融資調達サポート|ホンマル株式会社
参考記事:ホンマル株式会社はどんな会社? 銀行融資調達サポートと月額制「社外CFO」の実力を徹底解説
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また、弊社では一緒に働く仲間も募集しています。
銀行員経験のある方は、ぜひ他の記事やYouTube動画もチェックしていただき、ご連絡いただけると嬉しいです。

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