
「無借金経営」は本当に正義か?年商3億円から考えたい銀行融資と財務戦略
「できれば借金はない方がいいですよね」
経営者の方と話していると、今でもよく聞く言葉です。
借入がなければ、毎月の返済もありません。
金利もかかりません。
心理的な安心感もあります。
ですから、無借金経営そのものが悪いとは、私はまったく思っていません。
ただし、一つだけ気をつけてほしいことがあります。
それは、
「無借金であること」自体が、経営の目的になっていないか
ということです。
会社が成長し、大型設備投資、新規事業、M&A、新拠点などを考えるようになると、
「借りるか、借りないか」
ではなく、
「会社にとって、どの資金をどう使うのが最も合理的か」
を考える必要があります。
銀行融資は、その選択肢の一つです。
今回は、銀行員として融資審査に携わり、現在は企業側で資金調達や財務支援をしている立場から、無借金経営と銀行融資の考え方についてお伝えします。
無借金経営だから、必ずしも安全とは限らない
無借金の会社は、借入返済がありません。
これは明確な強みです。
一方で、借入がないことと、会社の資金繰りが強いことは同じではありません。
たとえば、
- 現預金3,000万円、借入0円の会社と、
- 現預金1億円、借入5,000万円の会社。
どちらが資金繰りに余裕があるでしょうか。
当然、単純には判断できません。
重要なのは、
- どれだけ現預金があるか
- 毎月いくら固定費が出ていくか
- 借入返済はいくらあるか
- 今後どんな投資を予定しているか
- 本業からどれだけキャッシュを生み出せるか
です。
銀行も、借入残高だけを見て企業を判断しているわけではありません。
自己資本、収益力、キャッシュフロー、手元資金、返済能力などを総合的に見ます。
ですから、
「借入がゼロだから安心」
とも、
「借入が多いから危険」
とも、一概には言えません。
銀行員時代に感じた、「借りない会社」と「借りる会社」の違い
銀行の融資審査に携わっていると、さまざまな会社を見る機会があります。
その中で印象的だったのは、
- 借入を極端に嫌う会社と、
- 銀行融資を経営の選択肢として上手に使っている会社では、
成長局面で取れる選択肢が大きく違うということです。
たとえば、新しい工場を建てるとします。
投資額は3億円。
会社には現預金が3億5,000万円ある。
この場合、
「借金をしたくないから、全額自己資金で払う」
という判断もできます。
ただ、その結果、手元資金が5,000万円まで減るとしたらどうでしょうか。
工場完成後に、、、
- 売上の立ち上がりが遅れる。
- 原材料価格が上がる。
- 人材採用に想定以上のお金がかかる。
- 追加設備が必要になる。
そんなことが起きれば、急に資金繰りが窮屈になる可能性があります。
一方、
自己資金1億円、銀行融資2億円
という形にすれば、
借入返済は発生しますが、手元資金を厚く残すことができます。
どちらが正解かは、会社によって違います。
大切なのは、
借金が嫌かどうかではなく、投資後の会社が最も安定する資金構成は何か
を考えることです。
借入は「成長のための道具」の一つ
私は、無理に借入を増やすことを勧めているわけではありません。
銀行融資は、あくまで経営の道具です。
- 設備投資。
- 新規拠点。
- M&A。
- 新規事業。
- 運転資金。
必要なタイミングで必要な資金を確保することで、会社の成長スピードを上げられることがあります。
たとえば、
自己資金だけで5年待たなければできない投資を、
銀行融資を活用することで今実行できる。
その結果、売上や利益の成長を数年前倒しできる。
こういうケースはあります。
一方で、投資効果が不透明なのに、
「銀行が貸してくれるから」
という理由だけで借りるのは危険です。
銀行から融資を受けられることと、
その投資が企業にとって正しいことは別だからです。
だから私は、
「借りられるか」より先に、「借りて何をするのか」
を考えるべきだと思っています。
金利だけで融資を判断しない
経営者の中には、
「金利がもったいない」
と考えて借入を避ける方もいます。
もちろん、金利はコストです。
低い方がよいのは間違いありません。
ただ、金利だけで資金調達を判断すると、かえって機会損失になることがあります。
たとえば、仮に2億円を年2%で借りれば、単純計算で年間金利は400万円です。
この400万円をどう見るか。
もし、その2億円の投資によって年間3,000万円、5,000万円のキャッシュフローを生み出せるのであれば、
金利だけを見て投資を見送ることが合理的とは限りません。
逆に、
- 期待収益が低く、
- 返済負担が重く、
- 手元資金も薄くなる。
そんな投資であれば、金利が1%でも慎重になるべきです。
見るべきなのは、
金利そのものではなく、その資金を使った結果、会社全体がどうなるのか
です。
手元資金を残すことも、財務戦略
経営では、利益だけでなくキャッシュが重要です。
黒字であっても、支払いに必要な現金がなければ会社は続きません。
逆に、一時的に利益が落ちても、十分な手元資金があれば対応できることがあります。
だから私は、大型投資の際には、
「自己資金をいくら入れるか」
を非常に重要な論点として見ています。
自己資金を多く入れれば、借入は減ります。
ただし、その分だけ手元資金も減ります。
借入を増やせば、手元資金は残せます。
ただし、返済負担は増えます。
このバランスを考えることが財務戦略です。
借入残高を減らすことだけが、財務を強くするわけではありません。
必要なときに使える現預金を確保し、
無理のない返済計画を組み、
次の投資余力も残す。
そこまで含めて考える必要があります。
銀行融資は「困ってから」考えない
銀行融資について、私が特に大切だと思っていることがあります。
資金が必要になってから初めて銀行に相談しないこと
です。
- 業績が悪化してから。
- 現預金が減ってから。
- 工事契約を結んでから。
- M&Aの契約直前になってから。
この段階になると、選択肢はどうしても少なくなります。
一方で、
- 半年後に設備投資を予定している。
- 来期に新規拠点を出したい。
- 数年以内にM&Aを検討している。
という段階から、
- 必要資金。
- 自己資金。
- 借入額。
- 返済期間。
- 銀行との相談時期。
を整理しておけば、会社側が主導して資金調達を進めやすくなります。
私が大切にしている、
「事前の一手は、事後の百手に勝る」
という考え方は、ここにもつながります。
「借りるべき会社」と「借りない方がいい会社」
銀行融資は、すべての会社が積極的に使えばよいわけではありません。
たとえば、
- 明確な資金使途がない
- 本業の赤字が続き、返済原資が見えない
- 投資計画の根拠が弱い
- 借入後の資金繰りを把握できていない
- 既存の借入返済がすでに重い
という状態なら、まず会社の財務や事業そのものを整理した方がよい場合があります。
逆に、
- 安定した利益・キャッシュフローがある
- 成長投資の機会がある
- 投資効果が見込める
- 返済能力に余裕がある
- 手元資金を一定程度残しておきたい
という会社であれば、
銀行融資を使わないことが、必ずしも最善とは限りません。
大切なのは、
「借りるか、借りないか」を思想で決めないこと
です。
数字と事業計画を見て判断する。
それが経営だと思っています。
無借金を目指すより、「選べる会社」を目指す
私は、経営者に
「借金をしましょう」
と伝えたいわけではありません。
むしろ目指したいのは、
借りてもいいし、借りなくてもいい会社
です。
- 手元資金がある。
- 利益が出ている。
- 銀行との関係ができている。
- 必要なときには資金調達できる。
- 投資を見送ることもできる。
- 投資に踏み切ることもできる。
こういう会社は強いです。
反対に、
「借金は絶対しない」
あるいは、
「銀行が貸してくれる限り借りる」
と最初から選択肢を決めてしまうと、
経営判断の幅を自ら狭めることになります。
会社が成長するほど、
財務判断は複雑になります。
だからこそ、
無借金か借入か、ではなく、会社の将来にとって最適な資金構成は何か。
そこから考えることが大切だと思っています。
ホンマル株式会社では、大型投資やM&A、新規事業などに伴う大口融資の調達だけでなく、
- 投資前の資金計画、
- 返済可能性の検証、
- 資金繰り、
- 融資実行後の財務管理まで、
企業側の立場から支援しています。
資金調達はゴールではありません。
会社が次の成長へ進むための、一つの手段です。
ホンマルは、その判断を財務と金融の視点から支える会社でありたいと思っています。
ホンマル株式会社
代表取締役 村松 広輝
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